日々の読書

日々、つれづれなるままに読んだ本の、感想おきば
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久々に本格ミステリーを読んだら、探偵になって犯人を追及する夢を見てしまった。

パリのどんより冷たい灰色の冬のさなかに起こる殺人事件で、協調される「赤」色が、くっきりと印象に残る。

<帰国は近い。裁きは行われるだろう。心せよ I>

20年も前にスペインでレジスタンスに参加して行方不明となった男からの手紙が、届いた。
そして首なし死体から始まる連続殺人事件。

不気味な手紙、現場に残る小さな謎たち、登場人物たち同士の旧い因縁と現在の関係、不可解な行動。様々な人物による幾通りもの推理。
うっとりするようなミステリーの材料だ。

食前酒「アプリチフ」
不在証明「アリビ」
簡単な生活「ラ・ヴィ・サンプル」

とか、ところどころにフランス語のルビがふられているのが異国情緒を高める。

犯人探しだけでなく、正体を伏せていた人物の過去や、20年前の事件の真相も明らかになったり、と、盛り沢山で嬉しい。

また、こうした推理小説としての愉しみ以外に、この作品には、現象学を学ぶ風変わりな探偵役の青年、矢吹駆と、その哲学が出てくる。
この作品は、連合赤軍事件によって体現されたテロリズムの意味を読み解くために書かれたとか。
「テロルの現象学」という同著者の評論で書かれたことが、ミステリーで表現されているようだ。

まず、現象学とは。
事件に対する論理的な説明ができたとしても、それが正解とは限らない。
論理的な説明は、何通りもできる。
その中から正しい答えを選ぶのは、人間の本質的直感を使えばよい、という。

本質的直感とは、人間が無自覚に日常的に働かせている、対象を認識するための機構。
例えば、円周率なんて知らなくても、「円」と「円じゃないもの」を判別できるのは、判別のための基準 = 「円の本質」をみんな知っているから。
これを、どう殺人事件の推理に当てはめるか?というあたりは、ちょっと無理やりっぽいのだが、「へぇ~」と思う新しさがある。

そして、この作品の殺人事件は、「観念による殺人」であった。
殺人には2つのタイプがあり、金や嫉妬や地位保全などの物質的欲望の充足と、個体の死を延ばそうとする自己保存本能によるもの。よくあるのはこちら。
もう1つが、観念による殺人。
人間よりもっと高い価値のために、神や、正義や、倫理のための殺人。
たとえば、「他の生物を無用に殺さない」という宗教の教えが浸透している男が、たかだか40億の人類のために、その万倍、億倍の生命が失われる事を知り、人類を滅ぼそうとする。これが観念の殺人。
それは善なのか?悪なのか?

最後に行われる、観念の殺人を行った犯人と、駆の、思想の対決。
駆は、犯人の思想に非常に共感はするものの、でも最後のところでそれは間違っている、と反駁する。そのコトバこそが、著者がこの本であらわしたかった思想なのだと思う。
暗く冷たく、でも最後には人を信じようとする、ユニークな思想を持つ駆。彼にまた会いたいという読後感で終わる。
本作はシリーズ第一作らしく、つづきがあるようなので、あとの楽しみができた。
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