日々の読書

日々、つれづれなるままに読んだ本の、感想おきば
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
著者が亡き妻の思い出を綴ったエッセイ。

ぱらりとめくってまず、カバー見返しの写真で初めて城山三郎を見て、実にかっこいいと思った。晩年の写真だろうが、男前。

この原稿は、未完で欠落あり、順不同だったものを、新潮社の編集者が一編にまとめたらしいが、バラバラで切れ切れな感じが、またいい味を出している。

最愛の妻の死に近づく終盤は、予想通り涙が止まらない。東北本線のグリーン車で、窓の方を向いて世界に没頭しながら読んだ。

冒頭。著者の講演会にこっそり参加し、著者が気付いた瞬間「シェー!」のポーズをとる妻。

『笑いたいし、怒りたい。「参った、参った」と口走りたい。そこをこらえて話し出し、何とか無事、講演を終えることができた。』

妻は後で控え室に謝りに来るが、『顔にも体にも笑いを残している』

このエピソードで、妻・容子さんのチャーミングさにやられる。その後も読めば読むほどに可愛いらしい。
シンプルな描写にこめられた愛情に胸がいっぱいになる。
わずか130ページの薄い本に、切れ切れのエピソードが、こんなに輝いている。著者の心からの愛情、感謝がぎゅっとつまっている。

学生時代にさかのぼった2人の出会いのシーンも小説か!?と思わせるほどドラマチックで胸が熱くなる。
休館日でもないのに何故か閉まっている図書館の前での出会い。
オレンジ色がかった明るい赤のワンピースを来た若き日の妻。著者の印象は『間違って、天から妖精が落ちて来た感じ。』この後の2人のやりとりも、すごくいい。

二夏もの間、家を空けて執筆に専念したが作品は没となり収穫なしの時も、
『容子は、何ひとつ文句も質問も、口にしなかった。
 それも深い考えや気づかいがあってのことというより、「とにかく食べて行けて、夫も満足しているから、それでいい」といった受け止め方であり、おかげで私は、これ以降も、アクセルを踏みこみながら、ゴーイング・マイ・ウェイを続けて行く事ができる、と思った。』

筆で身を立てようとする夫を、ごく自然に支えられる妻の姿をシンプルに表した一文で、すてきだ。

妻の茶目っ気を静かに苦笑して受け止める大人なイメージの著者だが、こちらにも少年のようなチャーミングさが感じられる。

水上機に乗ってみたいと言ったところ、妻はたいそう心配性でそんな小さな飛行機に乗るのは1度きりと約束させられ、カナダ取材中にその1度を使い果たすが、妻亡き後に、妻が亡くなった事に対しては眠れないほど落ち込んでいたくせに、
『約束は、約束した相手が亡くなれば、まあ無効。』
と、ハワイでもう一度水上機に乗り、念願の操縦を果たしてしまう。

夫婦でオーロラを見に、はるばるアラスカまで行くが、夏の白夜の季節で、オーロラが出ていても見えない。時間も費用も大きな無駄だが、妻は文句も愚痴もなく「あら、そうだったの。残念ね。」とあっさりしたもの。が、その数年後、ヨーロッパに向かう夜行便で、窓の下にオーロラを眺めることができ、2人は手を握り合い、夫婦で旅してよかった、と胸を熱くする。

この、穏やかで優しくも鋭いまなざしの著者が、他にどんな小説を書いたのか気になるので、いつか読んでみたい。
スポンサーサイト
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。