日々の読書

日々、つれづれなるままに読んだ本の、感想おきば
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このあと、「玻璃の天」、直木賞受賞作「鷺と雪」と続くシリーズ一作目。

舞台は、昭和7年の日本。
太平洋戦争前の不安定な時代、不自由な社会。


そんな中、士族出身の上流家庭で、しかしのびのびと育った令嬢の元に、新しいお付きの運転手がやってくる。
この時代には珍しく、女性の運転手。
宝塚を彷彿させる、流麗な容姿、颯爽とした身のこなし、控え目で言葉は少ないが常に鋭い。とにかくかっこいい。

令嬢は、北村薫の本でよく見かけるような、素直でいい子。
まだ10代半ばで不自由なく育ったのに、思慮深く聡明なきらめきが見えて、本好き。
運転手のあだ名を「ベッキーさん」と名付ける。
サッカレーの長編小説「虚栄の市」に出てくる才気豊かな主人公の名前だ。

ベッキーさんのさりげない助言で、令嬢が謎ときする短編集。
身分格差など社会の理不尽さに少しずつ対面していきそうな雰囲気。
それに伴う、令嬢の成長が楽しみなシリーズになりそう。
謎とき自体は、わりと地味だ。
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ストーリー:◎

●女子大生<私>の母校の後輩が屋上から転落して亡くなった。それは事故? 自殺? あるいは…??
というストーリーだが、上の一文から想像されるようなミステリーでは、ない。
謎解きは非常にゆっくりだし、解かれてみれば、「何だ、そんな事か」という程度。
味わいたいのは、その過程で、<私>が出会う出来事、考える事、友人や謎解き役の噺家・円紫さんからの言葉…そういう一つ一つが、水が染みるように読む人の心にじんわりくる。

“紫のひともとゆゑに武蔵野の草はみながらあはれとぞ見る”
という古今集の歌が、あるお菓子の箱に書いてあったという話がでてくる。
後で、<私>が円紫さんを自分の生まれ育った町に連れて来ることになるのだが、そこで円紫さんのこのセリフ。

「もう何年かすると、あなたもきっと誰かをここに連れて来るのでしょうね。そして自分の歩いた道を教えてあげる。そのとき、誰かは、<<ここはどこの道よりも素敵だ>>と思うでしょう。一本の木、一本の草までね」

<私>は体がしびれる。
読んでた私も体がしびれ、思わず、本を閉じて反芻する。

北村薫の話は、決して美しいだけの物語ではない。
人の嫌な面や弱い部分も書かれているし、眉をひそめるようなつらいシーンもある。
ドラマチックに、都合のよい事だけが書かれているのではなく、物語のあくまで一部分として、上述のような珠玉のシーンが登場するのだ。
実人生だって、よいことばかりではないけれど、悪いことばかりでもない、そして時には円紫さんの言葉のような心ふるえる出来事もある。
北村薫の本は、それを思い起こさせてくれる。

「秋の花」は、北村薫の「空飛ぶ馬」「夜の蝉」に続く<私>と円紫さんシリーズの一つだが、それぞれ独立した話なのでこれだけ読んでも問題ない。

ストーリー:◎

大学時代、本屋さんで短期バイトをしているときに、職場の先輩がススメてくれた1冊。即効でハマって、今では大好きな1冊に。

「日常生活におけるささやかな謎のミステリ」という分野の先駆者ではないだろうか?
殺人など起きない。主人公の女子大生の<私>が、ふと目にしたもの、耳にしたことで、「不思議だなあ」と思った出来事を、探偵役となる噺家が、あざやかに推理する短編集。

現場検証も証人喚問もない、ただ<私>の話だけが材料となる謎解きだから、「うーむ、ちょっとこじつけっぽい。それはどう見ても解答を知ってないと解けない謎では?」と思うものもあるが、
・赤頭巾
・空飛ぶ馬
の2編は、そんなこじつけを疑う気にもならないほど、ストーリーと謎解きがうまく融合していて、本当に見事!!

そう、このストーリーとの融合が、この本の魅力。

大学生にしてはえらくウブでイイ子ちゃんで、女になる事に頑なな<私>。
父の心からの許しなしには口紅は決してひかない、だとか。
「街ですれ違うカップルが美しく見えないんです」「抑制がなくてぎらぎらしているでしょう」とか言っちゃうような。

これに対し、噺家の方は大人だけあって、つらいことも楽しい事も見てきただろう上で、それでいて実に優しい人柄。

落語で『夢の酒』『樟脳玉』という噺があり、夫に恋する若妻、死んだ恋女房を慕う夫が出てくるのがあるらしい。彼らはいずれも手放しの愛情で相手を慕う。
この噺家がこれをやると、<私>は、泉鏡花の「天守物語」で最後に近江之丞桃六が「泣くな、泣くな、美しいひとたち、泣くな」と出てくるところを思い出すという。
「この言葉にこめられたような気持ちで『夢の酒』や『樟脳玉』をやってらっしゃるんだろうって思ったんです」

泉鏡花の「天守物語」は読んだ事ないが、波津彬子が漫画化したものは見たことがある。
姫路城の天守に住む美しい妖怪の姫君と、若侍の恋物語で、人間たちに追い詰められ、2人して死のうとするそのときに、唐突にあらわれて2人を救ってくれるのが近江之丞桃六。
手放しの愛情などという滅多に持てないものを持った人たちに対するあたたかいまなざしが、共通しているということかしら。

『赤頭巾』『空飛ぶ馬』が連続しているのがいい。
『赤頭巾』で、<私>の幼いころからの憧れを、醜い男女の姿が台無しにした。
噺家の推理は、私に残酷な解答を示した。
で、次の『空飛ぶ馬』で、時はクリスマス、働き者の近所の酒屋の若旦那が見つけた遅い春、見ていてこっちが幸せになるようなカップル。
酒屋から幼稚園に寄付された木馬が、一晩だけ姿を消した。まさか空を飛んでどこかへ!?
その真相はすごくあたたかく、「そこには、純粋で真摯な思いをどこまでも守ってやろうといういたわりがあった」。

噺家のセリフ
「-どうです。人間というのも捨てたものじゃないでしょう」
この人はいつもこれが根底にあって、やさしい。だから落語もやさしいのだろう。

頑な<私>が、『空飛ぶ馬』で最後に少しほどける。そんな<私>が、どんな大人になってゆくのか?シリーズものだから、続きが楽しみ。

また、作中で、いろんな本や落語が紹介されて、それが新たな世界を広げてくれる。私はまだ落語には踏み入れてないが、本はここで紹介されて手にしたものも多い。

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